古城跡地の球場にて(1)

 7月29日、30日、31日の三日間、長野県上田市において開催されたJA共済杯第50回全日本選手権大会に派遣された。
 久し振りの全日本選手権大会に、常に冷静であろうと思っている俺の気持ちも、自然と高まってきているのを感じながら、俺は上田市に着いた。
 懇親会で、Tさんと話すことが出来た。俺はルールに忠実であろうとするあまり、その適用において、選手に指摘する方法が、時に拙い結果をもたらすことがあるのは知っていた。
 Tさんは言う。「実業団の投手であろうと、高校生であろうと、ボークを一回とられただけで、がたがたになる。ましてやリトルリーガーは小中学生だから、その指導については、ベンチに引き揚げた時に監督を介して伝え指導するようにしてください」
 そうだよな、ルールの適用は審判の重要な仕事であるとともに、指導する意味合いもあるものだから、その方法についてはTさんの言うような方法がもっとも良いものなのだろうと思った。

 30日、第二試合の一塁塁審が俺の配置だった。試合は東海連盟第二代表の浜松南と神奈川連盟代表の旭の試合だ。
 全日本選手権だから、連盟の大会だから、練習試合だから、そんなことには拘らない俺はいつもの平常心を保っていると思っていたが、回りの雰囲気がいつの間にか俺を熱くしてしまっていた。
 試合が始まって直ぐに俺の視線の先に違和感を覚えさせる光景が広がった。
 その投手の投球動作に違和感を覚えたのだ。ワインドアップで投げるその投手は、ダイナミックな美しい投球姿勢から手にしたボールを出し入れして投球するのだった。
 イリガリーピッチだ。一度グローブから出したボールは、再びグローブに入れることなく投球されなければならない。
 幸いにして俺は一塁塁審だから、イリガリーピッチを指摘することはない。
 しかし、打者は投球を見極め、フォアボールで一塁に進んでしまった。
 打者が走者になった後も、投手はボールを出し入れしてから投球に及ぶのだった。
 いつもの俺だったら、即座にタイムを掛けて、監督を呼ぶところだが、昨日の話を覚えていた俺は、二十球に及ぶボークを見ながら、そのイニングが終わるのを待った。
 スリーアウトを取ってベンチに下がったところで、ルールに違反している投球動作であると告げた。温和な監督は、以前から認識していたのかは分からないが、俺の指摘について問い質すこともなく頷いて、注意すると約束したのだった。
 次のイニング、その投手の投球を見て、俺は嬉しくなった。見違えるような、きれいな投球動作となっていたからだ。
 何だ、やればできるじゃないか、そう思うとともに、試合の途中でタイムを掛けて、監督を呼んで観衆の見守る中で、注意などしなくて良かったと思ったものだ。

 続く

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