摘発のすすめ(見るということ)

 建物や人物の行動を看視するとき、当該対象を見るのに三つの視点が考えられる。
 それは、SEE(観る)、LOOK(見る)、WATCH(視る)の三つの視点だ。
 どれも対象物を見るという行動なのだが、その見ている範囲や注目点に違いがある。
 人によってそれぞれ認識の違いはあろうが、俺はSEE(観る)というのは大きく対象物を捉えて見ることだと認識している。
 こうして見ることで、対象物の形態や状態だけではなく、周辺の形態や状態をも把握できると考えている。
 これは時として漫然と観察していることにもなりかねないが、対象の全体像を把握するのに適した視点である。
 次にLOOK(見る)というのは、より対象に絞って見る状態を言う。概ね対象物の周辺2~3メートルの範囲に絞って見ることと考えている。
 これによって対象物の変化や動きを把握することができ、対象物を見るという目的に最も適した視点であると言える。
 最後にWATCH(視る)であるが、これが看視に最も適していると思われがちだが、細かな部分に視点を集中することで、逆に対象物の変化に気付かないということがある。
 特に対象が人間であったりした場合、注視していることが離れた者から通知されたりして、通常ではない動きとなり、仕舞いには消え去っているということにもなりかねない。
 この場合、注視していると同時に、ときに観るであるとか、見るであるとかの、視点の変更をすることが必要なのである。

 では、視点の切り替えとはどういうことかについて考えてみよう。
 対象に近付いて行って、周辺の動きや人の出入りを見るときには、何処といって焦点を定めるではなく、対象の全体像を俯瞰するように見るのが良い。そうすることで、周辺の状況とともに、人の出入りの頻度であるとか、自動車等の通行状況などが把握でき、広く情報を収集できるのである。
 俯瞰してみている途中で、追跡している容疑者を発見した時には、容疑者に焦点を絞って周辺の2~3メートルを見るようにする。
 そうすることで容疑者の出入りの状況、時間帯、移動手段等のより容疑者に関する情報を収集する。
 ただし、このとき気をつけなければならないのは、俯瞰から見るに移行する間に、注視する、視るという動作が入ることだ。
 俯瞰していた状況に、特定の対象が進入してきたときに、それが容疑者本人であるという確認が必要だからだ。
 こういった作業は一人でもできるが、記録を録ることを考えれば、複数の人間で実施した方がより確実である。
 複数でやる場合でも、また単独でやる場合でも、見ている状況を声に出して同行者に伝えることが必要だ。
「対象の建物は、木造二階建てのアパートで、容疑者宅は二階の鉄製階段を昇った一番奥の部屋である。
 居室番号は表記されておらず、居室の玄関扉も木製で、簡易なシリンダー錠で施錠されている」
「居室の裏手には、・・・・・」等の見ている状況を声に出して伝えることで、自分自身の耳で状況を再度確認できるので、記憶にも残り易く、記録も録りやすくなる。

俺が内偵調査や尾行をやっていた頃には携帯電話も高性能のものではなかったし、ビデオカメラなどもなく、写真を撮るのが精々だったが、現在はビデオカメラ、携帯でもデジタルカメラの機能がついたものがあるし、音声もICレコーダーが手に入れ易くなっているから、それらの機材を利用することで、曖昧な記憶に依拠することなく詳細な内偵調査が可能となっている。
 人の記憶というものは当てにならない部分が多く、俺が内偵調査していたときも、周辺が畑だと思って報告書を作成していたところ、実際に摘発を実施した時には、畑だと思っていたところが、一面の稲穂たなびく田圃であったということを経験した。
 その時は摘発に着手する寸前に、摘発車両の配置と着手方法を工夫して、工場内から誰一人として飛び出させなかったから良かったものの、外を走り回られるようなことになっていたら、泥田の中の運動会となっていたかも知れず、また、稲田に損害を与えるかも知れなかったことを考えると、今思い出しても冷や汗ものの内偵調査だった。
 当時は、「この田圃は二毛作で、内偵調査したときには畑だった」と拉致もない言い訳をしたが、あの当時、今のような機材があれば、きちんと記録されており、摘発計画の段階で容疑者の飛び出しを防止して、工場内に閉じ込める方策を検討できていただろう。

 視点の切り替えを行って、特定の人物を文章で表現することも、内偵調査では必要となることがある。
 摘発をしようとする場所が、住居や守衛がいるような事業所、会員制をうたっている飲食店舗など、いざ立ち入ろうとしたときに、許可状が必要となるような場所である。
 容疑者を看視し、その特徴を把握して、容疑者像をどのような言葉を使って表現するか、それは工夫する必要がある。
 いつも中肉中背の頬骨のとがった目つきの鋭い男では、許可状請求に行っても、きっと、裁判官に呼ばれて、説明を求められるに違いない。
 身長や体重は比較するものを用意して、具体的に表現することができる。髪型はその長さ、色、形状などを表現する、これには理容師や美容師に知り合いがいたら、どのように呼んでいるか聞いてみるのもよい。眼鏡や装飾品の有無について、それが一般的ではないものであれば、それを記載することも考えられる。
 動作において特徴的なものを表現するのは、また、一考を要する。片足が不自由で、引きずるようにして歩くといったことを、禁忌の言葉で表現することは許されないからだ。
ほほに傷があるだとか、右腕を欠損しているだとか、左足が不自由で引きずるようにして歩くというような表現になるのだろう。

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