摘発のすすめ(内偵調査)5

 これまでお話してきたように、内偵調査の主たる目的は、調査結果を摘発に結び付けるところにあります。
 その為には動かないもの(居宅や工場、店舗等の建物)を観察調査する他に、動くもの(人物)を調査する為に、今回のように入店し、人物観察及び周辺の状況を観察調査する必要も出てきます。
 今回の事案でも、もしも不法残留していなかった場合であっても摘発できるように、仮に「興行」資格を与えられている者であったとしても、資格外活動容疑が立件できるような店舗内の状況及び営業形態の調査をしています。
 千葉市に住んでいた時のことです。近所のスーパーに買い物に行って、カートに品物を積んでレジに並んでいたら、パキスタン人の男が三人で買い物をしているのを見かけました。
 彼らのカートには、肉類の他に焼酎などのアルコールが詰まれており、日本に長く在留していることが窺われました。
 パキスタン人であると思ったのも、長年の摘発経験からですし、買い物の状況から彼らが不法残留しているであろうと推測したのも、俺のこれまでの経験則からの判断でした。
 彼らが店を出ようとするので、俺は妻と子供に呆れ顔をされながら尾行を開始しました。

 彼ら三人はスーパーを出ると、楽しげに語らいながら細かな路地を縫うように歩いて行きました。
 人通りは殆んどなかったので、至近距離で追尾することはできません。
 幸いなことに付近の道路や建物、何処に児童公園があるのか、小学校は、病院は、といった周辺の状況は、こちらに引っ越してきたときに散々歩き回っているので、眼を瞑っていても分かることが強みでした。
 複数の人員で尾行するときは、ときどき交代して交代した者が、先回りするといったこともやるのですが、一人で尾行しているときはそうは行きません。
 ただ、このときの俺は彼らが住んでいるであろうと思われるアパートに心当たりがありました。
 そこは児童公園に面して、複数の古い木造アパートが建っている場所でした。子供を連れて散歩の途中に、何度か立ち寄った児童公園の傍でした。
 今でこそ、入管法に違反している外国人であっても、オートロックのマンションに住んでいるようなこともありますが、当時、違反者の摘発で訪れるアパートは、木造の古いアパートばかりでした。
外国人、それも違反している外国人が借りることができたアパートは、日本人の学生なども借りて住むことがないような古くて、風呂もなく、トイレも共同であるような場所が多かったのです。
 彼らはアパートまでの最短距離の道を行きますが、俺は少し遠回りでも回り込んで先に先にと進んで、待ち受けるという方法をとりました。

 彼らが入っていったアパートを確認し、部屋を特定した上で、その後、休みの日などに時間を変えて状況確認をしたのです。
 これらの調査内容を調査報告書に纏め上げておいたのですが、当時は写真を撮ることもなかったし、全て文章で持って状況等を表現し書き表したのでした。
 気を付けたのは、俺の書いた報告書を見るだけで、入国警備官であれば誰でも、目的地に着くことができて、逃走が予想される場所や着手時に予想される事態に対応できるように、現場までの地図(役所から現地まで)、現状周辺の地図(建物を中心とする周辺)、玄関の状態(木製の扉で、簡単に外れるドアノブに内蔵されている錠前であることなど)、窓の状態(簡易取り付けのエアコンが付いていて、施錠できないようになっていること)、三人の男の人相・風体、一番適していると思われる着手時間についての考察などを書き込んでおいたのです。
 結局、この事案は、集中摘発月間のとき、偶々この近所の摘発を実施したついでに着手しましたので、詳細な報告書は利用されることなく綴られることとなりましたが、着手当日に読み返していて、手前味噌ながら良くできた報告書だと自画自賛したくらいに良くできていたと思う。
 俺はこのようにして、職場から出発する内偵調査だけではなく、日常的に内偵調査を行っていた。それが良いことなのか、それともやはり職務、業務であるから、きちんと出張稟議書を切ってから行うべきなのかは、議論があるところだろうが、益々細分化、巧妙化されてきている違反事件に対応するには、準備万端で望めないこともあるだろうから、こういった機会があれば直ぐに対応することも考えて良いのだろうと思っている。

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