摘発のすすめ(違反調査と取り調べ)

 摘発の着手と帰庁し違反調査を開始するまでの間に起こり得る事態について、これまで述べてきたが、これまで述べてきた以外にも種々の方策や対処方法が考えられるし、話し始めれば切りがないこともあり、この辺りで摘発そして身柄の移動が無事済んで、帰庁後の違反調査、取調べについてお話したいと思う。
 違反調査と取り調べ、同じことを繰り返して言っているのではないかと思われる方もいるかも知れない。
 しかし、事件を取り調べて処理する過程全般を指す違反調査といわゆる対人調査である取調べは、重なり合っている部分と重なり合わない独自の部分を持っていることをこれからお話したいと思う。
 違反調査の目的は、当該外国人の入管法違反事実を立証し、退去強制手続を執ることにある。
 最終的には退去強制令書が発付され、本邦内から強制送還され退去強制手続きは終了する。
 違反事件の処理の流れは、先ず入管法違反容疑者の出頭申告、身柄の引き取り、摘発などの当該入管法違反が疑われる外国人を目の前にするところから始まる。
 
 目の前の外国人は何者で、何をしていたのか、それを明らかにすることから始めよう。
 その身分は所持している旅券、外国人登録証明書、本人が申し立てる国籍、氏名、生年月日、入国した年月日などから入国管理局が保持するデータから引き出すことで明らかにするのが一般的だ。
 不法入国であれば、真正な身分事項での入国記録がないことが不法入国を裏付けることになるし、入国時に使用した他人名義旅券の氏名等をアルシャド(入国警備官物語参照)のように、写しを取っていたり、覚えていたりすれば記録が出てくるから、それらによって不法入国の実態が浮き彫りにされるのである。
 さらに不法入国に使用された旅券が丸ごと偽造されたものである場合や写真の張替えなどの変造旅券である場合、組織的な関与が疑われるものであることから、その入手の経緯を詳細に録取する必要がある。
 偽変造旅券の現物がそこにある場合は、旅券の鑑定結果なども不法入国の立証・判断資料となるが、現物がそこになく、供述によって不法入国事実を構成するような場合には特に慎重に録取する必要がある。

 不法入国容疑者の取調べにおいて、旅券の偽変造に関わる人物が判明する場合もあり、その者が入管法に違反して在留しているのであればその容疑に基づいて、正規在留者であれば不法入国幇助容疑に基づいてさらに摘発して事案の解明を進めることを考えるべきだ。
 不法残留者が三十万人を超えようという状況下にはない現在は、これまでのように単発的に入管法違反者を摘発・収容し退去強制するといったことだけで満足している訳には行かない。
 これからの摘発は、法違反者個人を摘発・収容するだけではなく、その背後関係や関連容疑者(退去強制の対象となる外国人ばかりではなく、正規在留者や日本人などで他の法律に違反する者を含む)等を明らかにすることが求められるだろう。

 摘発された容疑者は、覚悟が決まれば詳細に供述を始めるし、背後関係者からの妨害工作や本国にいる家族に危害が加えられそうな場合を除いて、丹念に供述を拾い集めることで、ただ一人の入管法違反者の事件処理というだけではなく、その事件の全体像を浮かび上がらせることができる。
 集団での取り調べは対人調査と言っても、直ぐ傍で取り調べが行われることから、取調官同士で隣の取調べ状況が気になったり、容疑者同士でも供述している内容が気になったりして、それが全体として供述を引き出しやすい状況が生まれるのなら良いのだが、相互に情報交換をしたり、どちらかに引きずられたりすることがあると、違反事実の調べを行うことができたとしても、事件の全体像や関連容疑者の炙り出しには失敗しかねないし、上っ面を舐めただけの調査に終わる危険性がある。
 それを防止する為には、特殊事案の違反調査・取調べに対し、個々に分散させての取調べが必要とされる。

 取調室を用意しよう。机が一つと椅子が二脚、容疑者の椅子はパイプ椅子で良い。
 取調官の椅子は肘掛がある椅子のしよう。これから行われる事情聴取の力関係を象徴するように。
 対面して聴取するのだが、位置関係を考えよう、外が見える窓があるなら、取調官は窓を背にして座るようにしよう。
 それは照明の当たり具合によってであるが、容疑者の顔に直接照明を当てる訳には行かないが、窓から差し込む光を取調官が背にすることで取調官の顔色ははっきりとさせない効果があり、陽光を受ける容疑者の顔色等の変化を観察することができるからだ。
 目線の位置は、当初は容疑者と同じ高さに維持しておこう。その方が話し出し易いし、その後、強く詰問する時に立ち上がって、上から覆いかぶさるようにした時により効果的になるからだ。
 基本的に入国警備官は、取調官が聞き取りながら調書を記録するのだが、個室での取調べに二人きりになることは好ましくない。
 容疑者が女性である場合は特にそうだから、複数の入国警備官を配置して行うようにするべきである。

 容疑者が女性であるが故に複数で取調べをしたいということもあるが、容疑者が男性であっても、取調べ時に暴行を受けたと申し立てたりする場合もあることから、密室での取調べには複数で当たることを原則としたい。
 複数で当たるときは、一人が事情聴取し、もう一人が調書を録取し作成するといったことも可能だ。
 その場合、調書の最後に署名捺印する入国警備官は、調書を作成した入国警備官ではなくて、読み聞けをして署名を取った入国警備官が調書を締めて署名捺印する。
 ドラマなどでは、警察も検察も対面して尋問する者と調書を作成する者の二人でやっているように、あのような形態をとることが望ましい。
 かつてのように尋問する入国警備官が録取する為にその都度、調書に目を落としてしまっていては、容疑者の顔色の変化や態度の変化などを見落とす可能性があるし、重要な論点を追及するタイミングも逃し易いからだ。
 俺も不法入国幇助事案の取調べの時など、このように尋問に当たり状況を部下に録取させたことがある。

 尋問する者と録取する者が別々の場合に注意しなければならないのは、尋問する者が記述する内容をいちいち声に出して録取者に伝えなければならないというところだ。
 聞いてそれを自分自身が録取するのであれば、頭の中にある文章を整理して書き連ねて行けばよいのだが、傍らで聞きながらそれを整理して書き連ねるには、尋問者の癖などを理解し、問いと答えの選別、尋問の先行きに対する想定、それらに熟練することが必要とされる。
 それは一朝一夕になるものではないから、通常は尋問する者は要所においてそれまでの内容を尋問対象者の語る言葉として、声に出して録取者に伝えなければならない。
 供述調書の出来如何で、違反容疑が固まらず、退去強制に至らないということも有り得るし、特に関連容疑者の追及に繋がるような調書になる為には、尋問する者との息のあった取調べが重要となる。

 供述調書の作成には、必ず必要な身分事項の特定と日本語の理解力の程度によってどの言語を使用するかの決定、問われている容疑事実の特定などがあるが、最初にそれらを記載してしまえば、後はどの順序で録取しても構わない。
 一般的には、歴年法といって、出生から書き始めて、経歴が進むごとに書き進める方法がある。
 これだと取りこぼしなく録取することができるので、ある程度の時間は掛かるが一番良い録取方法だと言える。
 さらに、関連容疑者の動向や関与状況などについて、ピンポイントで録取するには必要な記載事項の後に、必要な部分を録取するということもやっている。
 供述調書は一部でなければならないということはないので、歴年で録取した後の二回目、三回目の供述調書は必要な部分の録取でも良いのである。
 重要な供述は問答形式で録取するということを聞いたことがあるだろう。
 個人的にはあまりこの問答形式なる調書はお勧めできないが、密室での行為に関して、不法入国を幇助する、偽造旅券の提供を申し出た状況等について、誰が何と言ったのか、それについてどう感じて、どのように答えたのか等については、その場にいた者なければ知り得ない事柄であり、その部分は他の関連容疑者を追及する上でも重要となることから、問答形式をとって供述する者の言葉で語らせるのが良いケースであると言える。

 問答形式を何故お勧めできないかと言うと、供述調書の録り方それ自体が問答をしているからだ。
 尋問する者が問い掛けて、容疑者がそれに答えるという問答を繰り返すのが供述の録り方だから、敢えて問答形式をとることもない筈なのだ。
 それどころか考えてもみて欲しい、「何年に何処で生まれましたか」「大韓民国の・・・で生まれました」「お父さんの名前は、お母さんの名前は」「父は金・・、母は朴・・と言います」等いちいち質問と答えを書いていては、煩雑で読みづらくて適わない。
 これは質問のところは省いて「19・・年1月1日、大韓民国・・・において、父金・・と母・・との間に四人兄弟の長女として生まれました。直ぐ上に兄がいて、私の下には二歳違いの妹と五歳下の弟がおります」とするとすっきりとするだろう。
 このように供述調書は質問と回答の繰り返しなのだから、敢えて質問と答えを記載する必要はないと考えるのである。

 供述調書と押収したり、任意提出を受けたりした証拠物に基づいて、違反調査書を作成し、引き渡すと当該容疑者の事件は一応の終結を迎える。
 一応と言ったのは、その一人の事件は終結するが、これからの違反調査の目的である関連容疑者の摘発やブローカー組織の実態解明、そしてそれに基づく警察等の関係機関との合同による全体的な摘発によって、最終的に事件が終結するものであることを念頭に置いておかなければなりません。
 関連する者すべてが入管法違反者であれば、入管単独で全ての関連容疑者と組織を壊滅させることができるかもしれませんが、それでも入管法以外の他の法律に違反していることが考えられますので、それはきちんと刑事罰を与えなければならないのです。
 最初から合同で摘発を進めているのであれば、入管は入管法に違反する部分を、警察等は刑法に違反する部分をそれぞれ受け持って処分することができますが、入管が独自に摘発を進めてきた事件に、途中から関係機関を引き込むのにはそれなりのテクニックや手段を考えなければなりません。

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