摘発のすすめ(関係機関や関係者との付き合い方)1

 俺は普段から関係機関の人たちとの交流を深めることに心を砕いた。それはひとつに入管独自でやることに限界があることを承知していたし、入管法違反者を退去強制すればそれで一件落着とはならないことがあるのを認識していたからだ。
 今でこそ、不法就労者を雇用していた永住者や日本人の配偶者を退去強制手続に乗せることができるようになったが、以前はそれも適わず、不法就労者から搾取する者がのうのうと存在することができた。
 それらの者に適正な処分を与えるには、司法機関を巻き込まなければならなかった。
現在、不法就労助長に関して、永住者や日本人の配偶者といった正規在留者が退去強制手続を執られるようになっても、その殆んどが在留資格を変更されたり、在留期間を短縮されたりして、在留を特別に許可されていることを考えると、やはり司法関係機関とともに退去強制手続きとは別に刑事処分を負わせることが必要であると考える。

 それぞれ違う組織に属しているのだから、近付いて来る目的、手段、親密度なども様々だが、相手がどのような思惑であろうとも、どのような手段であろうとも、積極的あるいは消極的な付き合いであろうとも、どのような形であろうとも、相手に何かを課す訳には行かないから、そこはセルフコントロールできる自分にルールを設けるしかない。
 これは私生活における人付き合いと何ら変わりはない筈なのだが、そこに仕事が絡んでいると思うと、余計な気を使ったり、変に気を回したりして、常にはない行動を起こしたり、逆にやっても良いことをしなかったりして、信頼関係の構築に失敗することが多々ある。
 俺が自分に課したルールは、決して一方的に利用しないこと、利用されないこと、便利に使わないこと、使われないこと、できることとできないことを最初にはっきりと明示して付き合うこと、そして決して裏切らないということだ。
 当たり前だと思うかも知れないが、これが結構きついものだ。

 我々は入管法に違反した外国人の強制退去を目的とし、関係機関は当該の外国人が犯した犯罪を処罰することを目的としているが、身柄の確保及び証拠の収集、取調べを共有することで相互の目的が充足されるというその一点で共同作業ができるのである。
 こと外国人に関する情報量は確実に入管側に多いのだから、それを可能な限り合同で作業する相手に提供することが、結果的に摘発の成功に結びつくのである。
 そうして関係機関にある情報の提供を受けることが、より入管側の内偵調査を迅速かつ正確に行うことができるようになるし、摘発時の従事人員も大幅に補強できることにもなる。
 関係機関の職員と一緒に内偵調査や摘発・取調べを共にすることで、失敗することもあるだろうし、成功することもあるだろう。
 どちらかと言えば失敗経験を共有することで、より親密度が増すことの方が多かったような気がする。
 俺の失敗経験が多いということではないが、成功体験というのはどの点が成功に繋がったかなどを見直すことがない場合が多く、そのまま良かった、良かったで終わることが殆んどだ。

 それに引き換え失敗した経験は、何処に問題があったかを追究し易く、結果、次の摘発等の参考になる事柄が多く含まれているものだ。
 時には失敗の責任の擦り合いに終始するようなことがあるかもしれないが、それによって得られるものは何一つないから、そこは大人になって反省会をすることだ。
 成功した摘発の打ち上げをやるのも良いが、失敗した摘発の反省会はより有益であるから、是非とも行って貰いたい。
そういった場合に、先方が顎足つきでやろうということがあるかも知れないが、基本的には割り勘で、会費制でやることをお勧めする。
 そういった交際に使用できる費用を入管は用意していないから、自分の俸給、小遣いから賄わなければならないので、安い給料のうちは厳しいかも知れないが、将来、直接、間接に自分に返ってくる交流経験や人脈作りに対する投資だと考えて、そこは惜しみなく支払うことだ。
 この姿勢は、この後お話しする、関係者や容疑者だった者との付き合い方にも関係することなので、肝に銘じておくことだ。

 俺の場合は、県警単位での交流の他に、所轄署で知り合った警察官や紹介の紹介と言って訪ねてきた警察官など、色々な過程で知り合った警察官と公私共に親しく、緊密でいて秩序を保った付き合いができていたと思っている。
 彼らに特徴的なのは、親しくなるに連れて呼び名が変化してくることだった。
階級や役職名をつけて呼んでいるうちはお互いにかなり距離を置いて探り合っている状態で、何度か一緒に作業をするうちに、一緒に飯を食ったり、打ち上げの懇親会をやったりすると、ちゃん付けで呼び合うようにもなる。
いまは公務員を見る眼が厳しいから便宜を図ると言っても、然程のことはできないかもしれないが、以前は出入国歴照会などで融通を利かせたり、外国人登録の記録などを提供したりして、また、公務中の駐車違反やスピード違反などの処理に便宜を図ってくれたりもしていた。

 拙いと言えば、拙いことかもしれないが、その先にあるものが私的な利益を求めるものではなくて、治安の維持、入管法の適正な適用、刑法違反者の的確な取り締まり等々に繋げる為のものだという思いがあった。
 そこには一定の決して踏み越えないルールというものも存在していた。そのひとつが知り得た情報によって、身柄を確保し、検察官に引き渡して、起訴するという段階までには、正式に照会文書を発して証拠化するというものであり、公務中で止むに止まれぬ状況下での違反であり、事故を引き起こしてはいない、他の者に対して迷惑を掛けていないという条件がそこにあった。
 そうした条件というか、譲れないルールは関係者との付き合い方にも有効に存在する。
 特にこちら側が情報を得ようとする場合には、十分な節度と毅然とした態度が要求される。

 摘発した外国人やそれに関係した外国人、日本人などと摘発・収容した後に、また接触するようなことがある。
 それは強制送還後に再び来日したことによる場合もあるし、退去強制手続に乗っていても、在留特別許可によって再び在留が認められた場合などで、お礼参りではないが、挨拶に来る律義な者もいるからだ。
 また、強制送還された、在留特別許可された外国人の職場での関係者、住居地近辺の関係者、身辺整理時に交渉した不動産会社の関係者等の者には、再び全く関係のない別の事件で出会うこともある。
 そういった者たちとは時に敵対的に、時に友好的に応対することがあるが、どうしようもない位に敵対するようなことがない限りは、再び邂逅することがあっても不測の事態には繋がらないし、逆に情報を得ることができたり、便宜を図って貰えたりすることがある。
 そうなる為には、将来を考えて阿ったり、こちらから便宜を図ったりしないことの方がより効果的である。
 
 俺は取り調べの対象者に対し、その者が何らかの理由によって救いようがあれば格別、そうではなく強制送還の道しかない者については、その者が例え真実を話さなくても、極力過酷な追及や乱暴な取調べにはならないように気を付けた。
 それまでの供述や集まった証拠によって、退去強制から逃れられないものであれば、それ以上の追及は必要ないと考えたからだ。
 そこには関連容疑者に関する情報であることもあったが、仲間を売ることができない、ブローカーについて話すと本国の家族に危害が及ぶといったことが考えられる場合は、送還される容疑者に全てを押し付けるのは適当ではないと考えている。
 逆に在留特別許可が見込まれるような容疑者については、もう二度と入国警備官の取調べを受けたくはないと思わせるような取調べをするようにしていた。
 特にクラブなどの風俗営業関係に勤務していた学生は、学業成績が良好で出席率も高い場合は容疑不十分として処理され、退去処分しない傾向にあったので、彼女たちを解放するときには必ず泣かせるまで追い詰めてから身柄を放したものだ。

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