テーマ:小説

十四 逃走の果てに(3)

 聞き込む先は何れも嘗てホアホアが住んでいたり、関係者がいたりする所であったから、そこに立ち寄ったり、住んでいたりした形跡はあるものの、何れの場所でもホアホアを見つけることができないでいた。  考えて見れば、親兄弟がいる訳でもない外国人が身を隠そうと思えば、幾ら中国に比較して狭い国土の日本であっても、ひとりの人間が身を隠すのは容易なこ…
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十四 逃走の果てに(2)

 立ち回り見込み先、入管法違反者が立ち寄ったり、住居を構えていたりする場所のことだ。  入国管理局には毎日のように、違反している外国人が何処其処に住んでいるといった類の情報提供がある。  多くが曖昧な表現で通報越してくるものだったが、情報を受け取った入国警備官は補充調査をすることで、何とか摘発に結び付けられるように努力するのだった。…
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十四 逃走の果てに(1)

 何処で俺の人生は狂ってしまったのだろう。プラスティックチップに埋もれたまま死んでしまうのではないかと恐れを抱いたあの時、自分の置かれている立場を身に沁みて知ったあの時、それからは誰も信じることはなかった。  仲間となった者たちにも心を許すことなく、金を儲けるためにただ利用していた。あれほど尽くしてくれたことで、結婚した女でさえも利用…
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明けましておめでとうございます2014

 ブログを始めて八回目の新年を迎えた。  ここ数年は年賀状を出さないので、ここで新年の挨拶をするのが、通例のようになっている。  ただ、面倒くさくて出さないだけなのだが、遠い友人や知己の人も時折りこのブログを覗いてくれているので、今年もこの習慣を貫かせてもらう。  四年に一冊は出版したいと思っていたが、それも…
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今年も残すところ一週間

 何をしていたのかと言えば、何もしていなかったような、でも、ずっと、忙しくはあった!  何を成し得たかと言えば、何一つ成し得なかったような、でも、形に残るものは手元にある。  毎年、こうして過ごして来ている。  望むことも、望まないことも、それぞれが今では愛おしく、大切なもの。  来年のことを言えば、鬼に笑われるそうだから、今は…
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十三 微笑みの先にあるもの(12)

「今になって何故、こんな物を出そうという気になったのですか?」 便箋に手書きでびっしりと書かれた文字を見ながら、花村はそう陳美蘭に問いかけた。 「すっと信じては貰えませんでしたが、私がホアホアと離婚して片岡と結婚する時には、ホアホアとは連絡は取れていませんでした。  今日お持ちしたのは、それ以前にホアホアが住んでいた所や共通の友人…
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十三 微笑みの先にあるもの(11)

 調査第一部門の応接室にメイランは姿を現した。夫の片岡を傍においてソファーに座ったメイランは、以前の姿と大きく変貌していた。 「幸せそうですね」  メイランが花村に会いに来るというのを聞いて、同席することにした九鬼がそう声をかけた。  その場にいた者たちは九鬼の発言にどう対応して良いものか戸惑い、そしてそれ以上に気不味い雰囲気を振…
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十三 微笑みの先にあるもの(10)

 メイランが話したいこと、それはホアホアに関することに違いない。花村は咄嗟にそう思ったが、何故、今になってメイランはホアホアに関する話をしようとするのか、それをどう考えるのか困惑していた。  自分の身の安全は確保されており、今更になってホアホアの居場所に関する情報を提供することで、メイランが得られる利益はない。  また、ホアホアとは…
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十三 微笑みの先にあるもの(9)

 何もしなくても時間ばかりが過ぎて行く、適当に事務作業をこなして一日を過ごしながら、決まった報酬が得られることに満足している者にとっては、最高の職場環境だ。  だが、いつも何かをしていなくては落ち着かないでいる花村のような者にとっては、人任せにして待っているだけの時間は苦痛以外の何ものでもなかった。  そんな花村の様子を見ていた九鬼…
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十三 微笑みの先にあるもの(8)

 入管法違反者を退去強制することで、入国警備官の職責は果たされたと言ってよかった。  それなのに陳美蘭の強制送還は成らなかったばかりか、在留特別許可されるに至ったのは、入管側の敗北と言えた。  本来の目的である陳華平を摘発する為には、元妻であった陳美蘭の動向を探る以外に端緒はなかったが、在留特別許可されるに至った者を入管が引き続き追…
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十三 微笑みの先にあるもの(7)

 真面目に学校へ通い、成績も良かったホアホアが、それまで面倒見の良かったアルバイト先の経営者に見捨てられたことから、日本人に対する感情が親日的なものから反日へと変化させたのだった。  中国では幼少期から反日教育が為されていたが、それはいつの間にか心の奥底に仕舞われてしまい、目の前の進学問題や就職問題に反日も親日もそれぞれの意識には上ら…
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十三 微笑みの先にあるもの(6)

 誰よりもホアホアのことを理解している筈だった。  ホアホアもメイランも日本で苦学して未来を切り開こうとしていた。  メイランが学資不足で風俗関係の仕事に就こうとした時に、仕事を始めようとしたその当日にふらりと現れたホアホアがメイランを店から連れ出したのだった。  困惑するメイランに学費と生活費を渡すと、ホアホアはアルバイトに出か…
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十三 微笑みの先にあるもの(5)

 部屋を出て行った後も連絡をしてくれていたホアホアと、全く連絡が取れなくなっていた。  日本人の女を使って日本旅券を取得すると聞いた時、危うい状況に陥るのではないかと思った。  関係者を増やすことなく日本旅券を取得することはできないのか、直接、囲い込んだ日本人の男を利用すれば良いではないかと言うメイランに、ホアホアは答えた。 「俺…
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十三 微笑みの先にあるもの(4)

 陳華平と別れた後、日本人の男と再婚したことで在留が認められたわけだが、聞くところによると落とした携帯電話が取り結ぶ縁だという。  事実は小説より奇なりとはいうものの、九鬼から二人の馴れ初めを聞いた海老川は、余りに都合の良い内容に偽装婚であると確信していた。  偽装婚ということであれば、いくら入管が在留許可を出しても、警察は公正証書…
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十三 微笑みの先にあるもの(3)

 海老川警部補は途方に暮れていた。あと一歩まで追い詰めたと思っていた被疑者の手掛かりが、目の前に突如現れた霧の中に溶けこむように失われていた。  陳華平が成田から入国したあの時に捕まえられなかったことが、海老川を五里霧中の状況に陥れたことは間違いない。  それにもしても女房の陳美蘭が陳華平と離婚していたというのは、それを聞いた山田君…
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十三 微笑みの先にあるもの(2)

 退去手続きの間にホアホアの所在を突きとめることが出来ない場合、九鬼は送還される段になって、成田空港で最後の一押しをしようと考えていた。  その思惑も叶わずメイランは、謎の微笑みを残して再び在留することになった。  九鬼は千載一遇の機会を逸したことを思い知らされた。再び最初から考え直さなければならなかった。  ホアホアの依頼を受け…
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十三 微笑みの先にあるもの(1)

 あの日から九鬼は陳美蘭の動向調査を、埼玉出張所の入国警備官に依頼していた。  どちらに転んでもおかしくはない状況に、陳美蘭はいた。確かに申請書に虚偽の記載があったし、署名しているのは陳美蘭本人なのだから、九鬼は強制送還できるものだと信じ込んでいた。それがまさかの在留特別許可という連絡を受けて、審判部門の首席入国審査官の元へと走った。…
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十二 偽りの口頭審理(12)

 協議の結果、入国管理局は陳美蘭に「日本人の配偶者」として在留することを認めることにした。  不許可、そして退去強制という結論でなければ、行政訴訟は提起されることはない。一見して苦渋の決断と映る結果ではあったが、そうすることで入国管理局が傷つくことは回避された。  誰も傷つかない結論であっても、通常ではない不可解な経過を記録した事件…
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十二 偽りの口頭審理(11)

 抗議を受けるまでもなく、入管は西山の報告を受けた首席入国審査官が、本省の訴訟担当検事に事情を報告していた。  内部手続である裁決について言えば、どのような取り調べであっても、違反容疑が確定しているのであれば、退去という結論で決着をつけるに問題はない。  しかし、在留特別許可を得られるような事案だとして、行政訴訟を提起されたとするな…
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十二 偽りの口頭審理(10)

 東京入国管理局の正面玄関から陳美蘭は出てきた。傍にはメイランの腕をしっかりと握った片岡がいる。  退去という判定が出た口頭審理の後に、法務大臣の裁決を望んで異議の申し出をした。  口頭審理の最中はメイランも片岡も何度諦めようと思ったか知れない。西山の言うことが最もだと思うようなこともあり、また、冨樫が責任逃れをしている状況では、万…
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十二 偽りの口頭審理(9)

 しかしそんな西山の思惑を越えて、陳美蘭の周辺の状況は変化していたようだった。まさか公務員の男が陳美蘭と付き合っていたとは想像もしていなかったし、その男が陳と結婚する等とは知り得ようもなかった。  だがそんな言い訳が通るような状況ではないことも確かだ。首席が問題としているのは、冨樫を取り調べたときの西山の聴取方法だった。  西山が冨…
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十二 偽りの口頭審理(8)

 陳華平という男が何をしてきた男なのかについて、西山は知ってはいなかった。  稲山たちがずっと追いかけている男であるとしか知らなかったが、稲山たちの熱心さから推測するに、その男はかなりの大物であろうと考えていた。  その男と結婚していた女が、在留審査の網に掛かってきたのだ。稲山たち入国警備官を出し抜く絶好の機会を手にしたと思ったのだ…
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十二 偽りの口頭審理(7)

 審判部門の首席入国審査官は西山の話を聞いていて、見る間に眉間の皺を深くしていた。 「それは誘導尋問ととられかねないぞ、西山君。在留特別許可ということになれば、彼らもそれまでのことについて何も言わないだろうが、在留は許可しない、強制送還だということになれば、こちらは行政訴訟も考えに入れなくてはならないんだ。  それくらいのこと分かっ…
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十二 偽りの口頭審理(6)

「で、でも、それはそうとして、あなたが結婚したのは陳さんが不許可になってからじゃないですか。  強制送還されそうになったから、慌てて結婚というのはどうなんでしょうね」 「慌てた訳じゃありませんよ。結婚はずっと考えていましたよ、少なくとも僕の方は・・・。美蘭が自分の足で立っていたいというので、今回は就労資格を取ろうとしたんですよ。自立…
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十二 偽りの口頭審理(5)

「冨樫先生がそう言った。そう言っているというのですか」 「ええ、取り次ぎというのはそういうものだと言っていましたね。申請者が言うことを信じていると。まさか離婚しているという事実を隠すなんて思いもしなかった。そう言っていますね」 「そんな筈はないですよ。別れた旦那の手続きも冨樫先生はやっているんですよ。その旦那が不法残留しているという…
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十二 偽りの口頭審理(4)

 口頭審理室で西山と対峙する片岡はもう以前の片岡ではなかった。自分に自信が持てずに悶々としていた頃の片岡のおどおどとした様子はそこにはない。  何しろずっと焦がれていた陳美蘭との結婚を果たし、妻を救うただ一人の男となったのだから。 「それまで一緒に住んでいたと言うことではないですよね。婚姻届を出したのも陳さんが収容されてからというこ…
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十二 偽りの口頭審理(3)

 冨樫は西山の術中に嵌ってしまった。西山は離婚した夫をそのまま夫として記載したのが単純な誤りではなく、陳美蘭が故意に事実を告げないで記載させたものだと言わせたのだった。  これで陳美蘭野退去強制は決定的になったと西山は考えていた。事実を曲げてでも在留資格を得ようとする者の結婚など認められるべきではない。  それに不許可となってからの…
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十二 偽りの口頭審理(2)

 西山の曖昧な返答を冨樫は、美蘭が自分の身を守るために責任放棄をしようとしていると、勝手に想像して受け取ってしまった。  短い面会時間しか取れない冨樫は、収容されてからの美蘭と話をしていなかった。  美蘭からの依頼によって片岡へ伝言したことで、それ以後は片岡が頻繁に美蘭と面会をしており、冨樫はもう用済みだというような扱いだった。 …
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十二 偽りの口頭審理(1)

 口頭審理室には西山と冨樫の二人だけだった。 「どのような理由があるにせよ、申請書には事実を記載しなければならないのだよ。先生も取り次ぎを業としているのですから、そこのところはご理解いただけますね。  離婚しているにも関わらず在日の夫として陳華平を届け出ているというのは、事実に反することで虚偽記載に当たりますよ」 「あれは事情を知…
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十一 混迷する違反調査(12)

 口頭審理を請求した容疑者はすべて異議の申し出まで行くのが通例だから、異議を申し出たとしても在留を認める理由がないとする裁決が下りるような決定的なものを見つけるか、もうひとつには在留を継続することを諦めさせて帰国するように仕向け、口頭審理の請求を取り下げさせるかの二つの方法があった。  西山は口頭審理の過程において、容疑者と関係者に在…
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