摘発のすすめ(関係者や関係機関との付き合い方)2

 飲食店の内偵調査での話。
 何だ、内偵調査の話は既に聞いているという声が聞こえそうだが、内偵調査に付随して、そこで知り合った関係者との付き合い方についての話になる。
 何だか如何わしい話になりそうだなと、期待している向きには残念な話になるかも知れないが、まあ、聞いていただきたい。
良い報せは早く、悪い報せはそれよりも早くというので、最初に悪いケースからお話しよう。
 新宿の飲食店の合同一斉摘発時のことだ。講堂に集められたホステスたちとは一線を画して、隅の方で経営者の取調べを行っていた。
 取調べを受けていた一人が衝立の隙間から講堂にいる二人の入国警備官をじっと見つめていた。
 証人調書がほぼ纏まりかけた頃だった。証人が取り調べた警備官に「あそこにいる背の大きな人は入管の人ですか、警察の人ですか」と問うてきた。
 指差す方を見ると、一人の入国警備官が身分事項の記載された質問票を集めていた。
「ああ、班長だね。入国警備官だよ」
 それを聞いた証人は「あの人ともう一人の人が私の店に来て、・・・」そう話し出したかと思うと、急に小声になって取調官とひそひそと話し出すのだった。
 しばらく黙って聞いていた取調官は、少しずつ険しい顔になるとともに話が終わると、講堂の壇上にいた首席入国警備官の元に向かって行った。

 取調官から証人の話す内容を聞いた首席入国警備官の表情も厳しくなっていった。
 指差された入国警備官は、このときの一斉取締りの為に、証人の店舗の入店内偵調査を行っていた。
 通常、入店内偵調査は一人ではなく二人のバディを組んで行われるが、このときは班長である警備士と統括入国警備官である警備士長の二人が組んでいた。
 警備士の方は俺の同期生で、少し軽いところもあるが、真面目な入国警備官だ。一緒に組んだ警備士長の方が曲者だったと言える。
 証人の話では、二人は飲んで食って楽しんだ後に、領収書を要求したと言う。
 会社の接待などに利用した客から領収書を求められることは多々あったので、その点では不審を抱くこともなく領収書を発行しようとしたのだが、重ねて金額を指定してきたことで印象に残ったと言うのだ。
 確か、二人で四万円くらいの飲食費であったところを、八万円の領収書を切るようにと強く要請してきたと言うのだ。
 おかしいなとは思いつつも、証人は言われるままに八万円の領収書を切った。
 証人は、不法就労者がいたのだから、店が摘発されて違反者が連れて行かれることになったのはしょうがないと諦めるが、入管は水増しした領収書を何に使うのだと言って抗議してきたのだ。

 事後調査したところ、二人は当該店舗に内偵調査に入る前に、居酒屋で景気づけの一杯に及んでいたらしく、それらの費用も内偵調査に必要だと理屈を付けて、内偵調査に入った店のママに嵩上げした領収書を要求するに至ったということだ。
 国相手の詐欺行為のようなものだと思うが、二人は処分されたものの、それは軽い処分で済まされている。
 もっと重い処分をと入管を外から見るものであれば言うのかも知れないが、内部での扱いはこんなものだ。
 ただ、入管法違反を摘発する者が、その手段において不正を働いていたというのは、もう論外であると言える。少なくとも俺にはそう言う権利があるというものだ。
 閑話休題、俺が問題とするのは、そういった弱みと言うか、内偵調査といった後に違反者にとって不利益な状況を引き起こす行政行為において、不正を働いて得た証拠などで処分されたというのでは、抗議したくもなるというものだ。
 今では、不法就労者を雇用している就労することが許されている者も、不法就労助長容疑で退去強制される時代だから、尚のこと、内偵調査や違反調査に従事する者は、身辺をきれいにして臨まなければならない。

 そうした内偵調査をする者がいるかと思うと、自前の内偵調査費を用意して実施する者もいた。
 内偵調査は複数の警備官で行うのが通例で、飲食店舗等の入店内偵調査には二人でというのが常識化していた。
 そんな内偵調査に同行したいからと言って、飲食費は自腹で参加するという者がいた。
内偵調査に実際にかかった費用以上の金額を公金から得ようとする者とは対極をなす者だった。
 三人での入店内偵調査がどのようなものだったか、俺はその現場にいなかったので分からないが、結果的に調査であることが露見した様子もなく、摘発が実施されたところを見ると成功したのだと言える。
 数度の摘発を経験している飲食店舗などでは、初見の怪しげな客を入管の内偵調査ではないかと疑い、実態を隠そうとするところもあるから、時にはこのようなイレギュラーな人員による内偵調査が有効なのかも知れない。
 ときに知恵を絞って、ときに身銭を切って内偵調査を実施し、摘発した事件の関係者とは、入管の内偵調査が鮮やかであればあるほど、いっときは遺恨に思うかもしれないが、それがずっと残るということはない。

 当時、俺には摘発した会社や店舗、工場等の関係者から、内偵調査時に協力してくれた不動産屋や飲食店舗等の近隣の人々などから、事件処理後にも連絡が入ることがあった。
 それらの人たちから提供される情報や近隣の内偵調査を実施する時や摘発時における協力などはとても有効なものだった。
 千葉市での摘発で、摘発した容疑者が飼っていた犬の処分に困っていたところ、近所に以前担当した関係者がいたことを思い出し、駄目もとで犬を引き取って貰えないかと打診したところ、快く引き受けてくれたことにより、任意同行を渋る容疑者を納得させた上で、摘発を終えることができた。
 群馬では内偵調査に向ったものの、調査先が移転していたのか不明であったところ、以前摘発した外国人が経営する店舗において、調査先の情報を得ることができて無事内偵調査を終えたりもした。
 最初は規制する者と、規制される者という関係であったが、事件が終結し、以後は真っ当に生活しているものであれば、対等に話し合うことができるものであり、徒に過酷な取調べや処分をしなければ、坦々とした摘発、違反調査を行っていれば、このような関係を持つことができる。

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